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東京地方裁判所 平成7年(ワ)25883号 判決

原告 株式会社東京三菱銀行(旧商号株式会社三菱銀行)

右代表者代表取締役 若井恒雄

右訴訟代理人弁護士 小沢征行

秋山泰夫

香月裕爾

香川明久

露木琢麿

宮本正行

吉岡浩一

被告 晝間昭

右訴訟代理人弁護士 三井眞之助

主文

一  被告は、原告に対し、四七七〇万円及びこれに対する平成七年一二月一四日から支払済みまで年一四パーセントの割合による金員を支払え。

二  被告は、原告の訴外株式会社東通工コーポレーションに対する四七七〇万円及びこれに対する平成七年一二月一四日から支払済みまで年一四パーセントの割合による遅延損害金の各債権が、別紙物件目録≪省略≫記載の不動産に設定された別紙根抵当権目録≪省略≫記載の根抵当権の債権の範囲に含まれることを確認する。

三  訴訟費用は被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

主文と同旨

第二事案の概要

一  本件は、訴外株式会社東通工コーポレーション(以下、「訴外会社」という。)の原告に対する貸金について、被告が保証し、物上保証したと主張する原告が、被告に対して、保証債務の履行等を求めた事案である。

二  争いのない事実

1  原告と訴外会社は、昭和五五年一一月二七日、銀行取引約定を締結し、訴外会社が原告に対する債務の一部でも遅滞したときは、原告の請求により、原告に対する一切の債務について期限の利益を失い、直ちに債務を弁済すること、遅延損害金を年一四パーセントとすることに合意した。

2  被告は原告に対し、同日、訴外会社の原告に対する一切の債務について連帯保証した(以下、「本件保証契約」という。)。

3  原告と被告とは、昭和五七年六月七日、別紙物件目録一記載の不動産に、原告を権利者として、極度額を五〇〇〇万円、被担保債権の範囲を銀行取引、手形債権、小切手債権、債務者を訴外会社とする根抵当権設定契約を締結した。

原告と被告とは、昭和五九年三月一〇日、別紙物件目録二記載の不動産を追加担保に差し入れする旨の根抵当権設定契約を締結し、更に、昭和六二年三月三〇日、極度額を一億五〇〇〇万円に変更する旨合意し、その旨各登記がなされた(以下、「本件根抵当権」という。)。

4  原告は、訴外会社に対し、昭和六二年三月三一日、二〇〇〇万円を同年九月三〇日を支払期日として、手形貸付けの方法で貸し付けた(以下、「本件手形貸付金①」という。)。

5  原告は、訴外会社に対し、昭和六二年四月六日、三〇〇〇万円を同年一〇月五日を支払期日として、手形貸付けの方法で貸し付けた(以下、「本件手形貸付金②」という。)。

6  被告は原告に対し、平成二年八月六日、本件根抵当権について元本確定請求を行った。

7  本件手形貸付金①及び②については、別紙(株)東通工コーポレーション手形貸付推移≪省略≫記載のとおり、訴外会社が原告に対し、「日付」欄記載の日に「期限」欄記載の日を支払期日とする手形を振出し、支払期日の到来した手形を原告が訴外会社に返還するという手形書替の方法により、事実上、返済期の延期が行われた。

8  更に、原告と訴外会社とは、平成三年一二月九日、右のとおり手形書替された二〇〇〇万円と三〇〇〇万円の各手形貸付金について、次の内容の金銭消費貸借契約を締結した(以下、「本件貸金債権」という。)。

(一) 貸付金額 五〇〇〇万円

(二) 返済期限 平成一二年八月三一日

(三) 返済方法 平成四年六月一日を第一回支払期日とし、同年六月末日を第二回支払期日として、毎月末日に五〇万円及び利息を支払う。

(四) 利率 年八・一二五パーセント

9  訴外会社は、原告からの催告によって、平成七年一二月一三日の経過をもって、本件貸金債権についての期限の利益を失った。

三  争点

1  昭和六二年七月ころ、訴外会社の原告に対する債務に関する本件保証契約について、被告に解約権が生じ、被告が、そのころ、これを行使したと認められるか。

仮に、これが認められないとしても、原告の被告に対する本件保証契約に基づく責任の追求は権利の濫用と認められるか。

(一) 被告の主張の要旨

次の事実を総合するならば、本件保証契約について、被告には解約権が認められるべきであり、仮にこれが認められないとしても、原告の被告に対する本件保証契約に基づく責任の追求は権利の濫用にあたるというべきである。

(1) 被告が原告と本件保証契約したのは、当時被告が訴外会社の代表取締役であったため、銀行取引の慣行として、原告からの包括根保証の要請を拒否することができなかったことに基づくものであり、したがって、被告が訴外会社の代表取締役たる地位を退き、原告が、訴外会社の代表取締役となった訴外宮崎侊(以下、「宮崎」という。)から包括根保証の保証書を徴求した昭和六二年一一月九日には、原告は被告に対する包括根保証の権利を放棄したものとみるべきである。

(2) 昭和六二年七月に訴外会社の経営が被告から宮崎に移ってからは、原告は、訴外会社の取扱支店を六本木支店から笹塚支店に移管し、右移管と同時に、訴外会社に対し、実質的には新規の取引先として臨んでいたのであるから、被告会社の旧経営者であった被告の本件保証契約に基づく包括保証責任は消滅したものとみるべきである。

(3) 被告は、宮崎が被告との間で合意されていた訴外会社の営業譲渡に関する義務を果たしていないという立場に立ち、遅くとも昭和六三年夏ころからは原告笹塚支店に赴き、原告の担当者にその事情説明をなして理解を求める一方、宮崎との関係が悪化している状態を原告に報告し、更には、前記第二の二の6のとおり、本件根抵当権の元本確定請求もなしたが、原告は、被告の求める取引元帳の写しの提出に応じなかった。

(4) 被告は、昭和六二年七月以降平成七年九月一二日付で請求書を受け取るまで、訴外会社に関する融資、返済等の状況について、原告からなにひとつ説明を受けたことも、請求通知を受けたこともなかった。

(二) 原告の主張の要旨

被告の主張についてはこれを争う。

本件貸金債権は、被告が訴外会社の代表取締役を勤めていた当時の貸金債権と同一のものであるから、その保証責任を原告が追求することは何ら信義にもとるものではない。

2  本件貸金債権については、本件根抵当権の被担保債権とならないものと認められるか。

(一) 被告の主張の要旨

原告と訴外会社とは、本件根抵当権に関する元本確定後である平成二年九月四日に手形書替をなしたが、この際、原告は訴外会社に対して同年八月三一日に支払期日の到来した手形を返還しているのであるから、法的には更改契約とみるべきである。

仮に、これが認められないとしても、原告と訴外会社とは、平成三年一二月九日に金銭消費貸借契約を締結したが、これは更改契約とみるべきである。

したがって、いずれにしても、本件貸金債権は、本件根抵当権の被担保債権とならない。

(二) 原告の主張の要旨

本件手形貸付金①及び②と手形書替後の貸金及び本件貸金債権とは順次、弁済期を猶予するためのものに過ぎないのであって、更改と解するべきではなく、同一性を有するものとして、本件根抵当権の元本確定後においても被担保債権となるものである。

第二争点に対する判断

一  争点1について

1  前記第二の二で記載した争いのない事実(以下、「争いのない事実」という。)を総合すると、被告が原告との間で本件保証契約を締結してから現在まで一五年以上を経過し、また、本件根抵当権設定からしても現在まで九年以上が経過していることは確かであるが、本件において原告が被告に対して本件保証契約の履行として求めている本件貸金債権は、結局、昭和六二年に原告から訴外会社に対して貸し付けられた本件手形貸付金①及び②について、その弁済期が延期されただけのものと認められる。

2  右事実によれば、被告主張の各事実が仮に認められるとしも、本件貸金債権はまさに本件保証契約の保証の対象となるべきものというべきであり、被告に解約権を認めるべき理由はないし、また、原告の被告に対する本件貸金債権に基づく請求が権利の濫用であるとも認められない。

二  争点2について

1  本件においては、争いのない事実で述べたとおり、原告から訴外会社に対して、当初、手形貸付けという方法により融資が行われているところ、普通銀行が行う手形貸付けとは、貸付けの一種で、借用証書の提出に代え、または更に手形を交付するものをいい、手形割引の場合と異なり、銀行と顧客間に消費貸借が成立しており、借主が貸主に約束手形を振り出すのが通常であると解される。

更に、争いのない事実によれば、本件手形貸付金①及び②の支払方法は一回払いであり、その支払期間(手形サイト)は六か月であったが、その後、その支払期間は三か月となり、昭和六三年一一月三〇日の手形書替以降は概ね一か月以内となっていったこと、この間、手形金額については手形貸付金①及び②と同様であったこと、平成三年一二月九日、原告と訴外会社との間で、それまでの二〇〇〇万円と三〇〇〇万円とに分かれていた手形貸付債権を本件貸金債権に一本化するとともに、支払方法について分割払いとする金銭消費貸借契約が締結されたことが認められる。

2  そこで、まず、本件根抵当権の元本確定後である平成二年九月四日に、原告と訴外会社との間で、支払期日の到来した手形と新手形とを交換する方式により手形書替を行ったことが更改契約であると認められるかどうかについて判断するに、更改契約とは、債務の要素を変更する契約であり、更改契約により旧債務は消滅するという効果をもつものであるところ、本件の場合においては、1で認定した事実を総合すると、原告と訴外会社との間で手形書替が行われたのは、旧債務についての弁済期を単に延期する手段としてであって、原告、訴外会社ともに旧債務を消滅させるという意思はなかったと認めるのが相当であり、したがって、更改契約とは認められないというべきである。

これに対して、被告は、本件の手形書替が更改契約とみなされることは判例上明かである旨主張するが、被告が指摘する判決(最高裁判所昭和二九年一一月一八日第一小法廷判決、民集八巻第一一号二〇五二頁)は当事者間に手形債務のみがある事案についてのものであるのに対し、本件は、右事案とは事案を異にし、1で認定した事実によれば、原告と訴外会社間には手形債務とは別に手形を振り出す原因となった消費貸借契約が併存すると認めるのが相当であり、このような場合には、原告が訴外会社に手形を返還したことをもって、更改契約とみなすことはできないというべきである。

3  次に、本件根抵当権の元本確定後である平成三年一二月九日の原告と訴外会社との間の金銭消費貸借契約が更改契約であると認められるかどうかについて判断するに、1及び2で述べた点からすれば、本件の場合には、被告が指摘するような単に手形債務を普通債務に変更する場合ではないから、これをもって右金銭消費貸借契約を更改契約であるということはできず、また、原告と訴外会社との間で右金銭消費貸借契約を締結したのも、旧債務についての弁済期を延期するための手段としてであって、旧債務を消滅させるという意思はなかったと認めるのが相当であり、したがって、更改契約とは認められないというべきである。

4  以上の点からすると、本件手形貸付金①及び②と本件貸付債権とは同一性を有すると認められ、本件根抵当権の被担保債権となると認められる。

第四結論

そうすると、原告の本訴請求はいずれも理由があるからこれを認容することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 横溝邦彦)

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